[インタビュー記事]
100年先まで

#20. 福島から日本全国へ

その人はいつも”感動する”美味しさを探して、日本全国を行脚している。
その人の話を聞きに会いに行った。

商品一つひとつに対する拘りと愛情に度肝を抜かれ、すっかり虜になった。
その人とは「選りすぐり館」のご主人、八木 政行氏である。


取材記事: 株式会社 樂(選りすぐり館) 八木 政行氏


選りすぐり館は八木氏と奥様の”二人三脚”(千葉県の無農薬米の田んぼにて)

「楽しむこと」には心が躍り、行動が伴います。
少しでも多くの方と「感動」を共有できるように

ベルトラ:会社を創業された経緯を教えてください。

八木氏:前職より30年近く物販卸売業に携わってきて、1995年の食糧法施行が人生の転機となりました。民間でお米が扱えるようになり、福島県の生産者とのお付き合いが始まりました。カリスマ百姓が率いる生産者たちの美味しい米作りに賭ける情熱は凄まじく、我が子のように愛情を注ぎ、気になることがあれば夜中でも田んぼに足を運ぶ姿と、そのお米のあまりの美味しさに感動したことが忘れられません。「日本の農業の未来は俺たちが創る!」と生産者たちの表情は輝き、とても楽しそうでした。

2002年、現在の会社を創業する際に頭に浮かんだのは、楽しそうな生産者たちの顔と中国の思想家孔子の言葉でした。

「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」

日本にある「好きこそものの上手なれ」の諺に似ていますが、物事の知識がある人であっても好きな人にはかなわない。さらに好きな人であっても、それを楽しんでいる人にはかなわないという意味です。

「楽しむこと」には心が躍り、行動が伴います。自らが楽しみながら全国を回り、感動した商品をお届けすることでお客様にも楽しんで頂きたい!そんな思いで社名を株式会社 樂(らく)といたしました。


新潟の味噌屋から譲り受けた昭和初期の巨大木桶を解体して、組みなおし。
日本伝統の技術を復活させた平均年齢30歳代の木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」

消えゆく運命の日本の伝統文化を守っていく
100年先を見据えた、希少な醤油「百年先も。」

ベルトラ:全ての商品に思い入れを持っていらっしゃると思いますが、お勧めを幾つか教えてください。

八木氏:確かに全ての商品がお勧めなのですが(笑)、今年しか味わえない森田醤油さんの「百年先も。」という特別な木桶造りの醤油があります。

江戸時代までは新桶がまず酒屋で20年ほど使われた後、桶職人の元で組み直し、醤油屋や味噌屋で100~150年使われる循環がありました。それが樹脂製やステンレスのタンクに取って代わられ、いまや木桶仕込み醤油の流通量は1%未満になりました。現在使われている木桶の多くは戦前に作られたもので、醸造用の木桶を製造、組み直しができる桶屋さんは今や日本で残すところ1社のみです。このままでは日本の伝統文化が消えてしまうのです。

この危機に、奥出雲で11代続く名門森田家が営む醤油店が100年先を見据えて動きました。既に20石の大桶を40本も所有していますが、小豆島で始まった木桶職人復活プロジェクトに参加後、島根では戦後初めての組み直しに挑戦したのです。新潟から昭和初期に作られた30石の巨大木桶を譲り受け、解体してメンテナンスを施しながら木桶を再生させました。ミリ単位の繊細で高度な技術を必要とする組み直しに挑戦したのは、平均年齢30歳代の木桶職人集団「結い物で繋ぐ会」です。日本の伝統を守り、技術を受け継ごうとする両者の心意気が歴史的な偉業を成し遂げたのです。

甦った木桶に、島根産の大豆・小麦、奥出雲の湧水で仕込み、二年の熟成を待って完成したのが、「100年先も。」です。新桶で仕込んだ最初の搾りでしか味わえない希少な醤油で、二年熟成とは思えない透明感のある美しい色合いと豊かな香りが特徴です。

◆【数量限定(300本)】甦った木桶に仕込んだ熟成醤油
「百年先も。」by 森田醤油
>詳細はこちら

北海道の南茅部町の真昆布

惜しみない手仕事は、単純に金額だけでは
計れない価値

日本一と言われる白口浜真昆布をふんだんに練り込んだ「麺戀」

八木氏:次にお勧めするのは、天皇家や将軍家に奉献されてきた別名「献上昆布」とも呼ばれる白口浜真昆布をふんだんに練り込んだ麺です。

刈り取ってすぐに天日で干さなければならない昆布漁は、天候とタイミングが重要です。旗持ちと言われる親方が空を見て、いける!となったら、ラッパ音が鳴りわたり、一斉に漁師が海へ船を出します。 旗持ちの合図を待つ 早朝からの採取開始に備え、漁師たちは午前3時くらいには起き出し、午前4時過ぎには既に漁場へと向かっていくのです。

昆布には人の手による絶え間ない気配りが必要です。採れた昆布の表面をきれいに洗い、玉砂利を敷いた浜辺で一枚一枚天日干しをします。天候を見ながら家族総出で干す・しまうを2~3日程度繰り返し、均一に乾燥を進めていきます。手間はかかりますが旨味をぐんと引き出すには欠かせない行程なのです。最後に経験を積んだ漁師の目利きで等級分けし、やっと選りすぐりの昆布が出来上がります。惜しみない手仕事は、単純に金額だけでは計れない価値のある伝統的な仕事です。

この希少な白浜口真昆布を焙煎して、道産の小麦粉にふんだんに練り込んだのが「麺戀」です。焙煎や粉の粒度、絶妙な配合割合を決めるのに1年半を要した渾身の逸品です。

◆素材の味を極限まで味わう逸品☆
焙煎昆布めん『麺戀(めんこい)』+隠岐のあごだし
>詳細はこちら

八木氏が惚れ込んだ全国の”美味しい”無添加食品・調味料(一部)

食べることは生きること
思いを共有できる素敵な生産者さんと共に100年先を見据えて

八木氏:衣食住と言いますが、私は「食」が頭に来るべきだと思っています。いざとなった時、豪邸もブランドの服も役に立ちません。茶碗一杯のごはんが生きるためには必要です。

「食べることは生きること」
皆さんはご自分が食べたものからできているのです。食は命です。

言い換えれば、食を扱うと言うことは、人様の命を預かると言うこと、責任を持たなければいけないのです。私が無添加に拘る理由はここにあります。子どもたちには化学調味料ではなく、出汁の味を覚えてもらいたいです。

皆さまの健康と食卓の笑顔を願って、思いを共有できる素敵な生産者さんと共に100年先を見据え、これからも活動してまいります。


編集後記:

ここまで拘って仕事をしていくことは、時としていばらの道を選択することになり得ますが、妥協をしない心意気に感動し、心から応援したいと感じました。自分の子どもの世代、また未来の世代のために安心安全な食品を購入していこうと心に決めました。

取材・文・構成/ベルトラ KURO



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