[インタビュー記事]

「ありがとう」を伝えに行く
お伊勢参り
#16.
Ise

日本を代表する神社、伊勢神宮。
日本人はなぜ伊勢参りをするのでしょう?
300年以上参拝客をもてなし続けるあの「赤福」の女将と、
伊勢神宮に詳しいMr.伊勢へ、
その“こころ”を伺いました。

◆ プロフィール
濱田朋恵(はまだともえ):株式会社赤福 取締役。第11代女将。赤福の和菓子を通じ、日本の食文化を国内外へ広める架け橋であり、伊勢のホスピタリティの真髄。

西村純一(にしむらじゅんいち):伊勢市生まれ伊勢市育ち。公益社団法人伊勢市観光協会専務理事。アメリカに渡り有名アニメ制作に携わった後、伊勢へUターン。ベルトラ・オンライン・アカデミーでもMr.伊勢として活躍中。

――― 最近の伊勢の様子はいかがですか?

濱田さん:「おかげ横丁も、まるで大学のキャンパスのようですよ。赤福の売れ筋も変わってきています。」

おかげ横丁とは、伊勢神宮内宮に続く参道にある一角で、江戸時代から明治時代頃までの建物が再現されている買い物やグルメが楽しめる人気スポット。

西村さん:「おかげ横丁は入場料の要らないテーマパークみたいなものですから、大人気ですね。若い方もしっかり神宮をお参りされていますし、おかげ横丁でしっかり楽しんでもらう、時代が変わっても脈々と続く伊勢参りの真髄ですね。」

取材したのは一部地域でまん延防止等重点措置が講じられるわずかに前。春休みは「日本らしさ」と「伊勢グルメ」を求める若い観光客で賑わっていたという。これまで伊勢の観光客は、どちらかというと年齢層が高めだったが、卒業旅行で伊勢を選ぶ学生も目立っていた。


――― なぜ日本人は伊勢神宮へ参拝するのでしょう?

濱田さん:「日本人だからだと思います(笑)」

噛み砕いていくと、どうやらこうゆうことらしい。
伊勢神宮に祀られているのは天照大御神(アマテラスオオミカミ)。その名の通り、天を照らす=太陽の神様。神道では八百万の神という言葉に代表されるように、海の神、風の神、森の神など実に多数の神様が存在する。イザナギ、イザナミが国生みをし、すったもんだの後、黄泉の国から戻った後で生まれた数多の神の中で、もっとも尊いとされるのが天照大御神であり、日本人の総氏神とされている。

濱田さん:「太陽が昇って沈んでいくから作物が実ります。つまり自然や私達の生活を代表する神様でもあるんです。」

伊勢は実に自然豊かな土地だ。気候が温暖で、山あり、川あり、海あり、里あり。そんな風土が気に入り、天照大御神は自分を祀る場所を伊勢に定めたとも言われている。自然がもたらすすべての恵みと”今”に感謝すること、それが神道の考え方だと二人は語ってくれた。昔の家には必ずといっていいほど天照大御神や氏神を祀る神棚があり、おかげさまで今日も無事でした!おかげさまで豊作でした!と日々の生活の中に神様を感じ、感謝していたのではないだろうか。


西村さん:「平成から令和に改元されたときに参拝客が増加しました。上皇上皇后両陛下、天皇皇后両陛下が神宮へお参りする様子がメディアに出たことがきっかけになったと思います。」

天照大御神は、天皇陛下の祖先、皇祖先とされる。令和の改元で、皇室と関係の深い伊勢神宮がメディアに取り上げられ、いつしか薄まっていた伊勢詣への理解がやんわり深まったのかもしれない。


式年遷宮
(しきねんせんぐう)を

中心に回る、

伊勢のホスピタリティ

西村さん:「神宮さんでは年間約1500ものお祭りをやってるんですよ。神様のお食事を作ってお納めする日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)だけでも毎日2回ありますから。」

呪文のようなこの言葉は、お祭り事の名前である。なんてお祭り好きなんだろうとお感じになる方もいるかもしれないが、これは神宮の内部で粛々と行われている神聖な祭り。外宮に豊受大御神(とようけのおおみかみ)が鎮座してから1500年、1日も欠かさず神様へお食事を届けており、国民に代わって「国安かれ、民安かれ」と祈りを捧げている。1500年間続いているとは、驚きを隠せない。


西村さん:「一番のビッグイベントは式年遷宮ですね。20年に1度、神様のお社をお引越しするんです。伊勢は式年遷宮に合わせて動いているみたいなところもあって、公共事業の加減も、企業の事業計画さえも20年周期だっりするんです。」

この式年遷宮も、1300年間続いているという。伊勢市民は遷宮に際し、お社に使われる「御用材(ごようざい)」や、神域に轢かれる「お白石(おしらいし)」を神宮へ曳き入れご奉仕をする。それはもう誇り高いことなのだそうだ。神様のために役立てることの誉れ。神恩感謝(しんおんかんしゃ)。この考え方こそが伊勢の人の根源なのかもしれない。ひいてはその神様への参拝客をおもてなしすることが誉れであり、「よく来てくださいましたね!」という心持ちで、現代の参拝客をもてなしてくれる。


写真:三重交通 美味し国周遊ばす より

――― やはり、日本一の神に参拝すると良いことがあるのでしょうか?

驚くことに伊勢市の3分の1が伊勢神宮の敷地であり、その多くは森。自然とともに神宮が存在し、内宮には天照大御神が、外宮には豊受の神が祀られている。静寂の森を30分歩き、やっとたどり着いたそこで静かに手を合わせる。

濱田さん:「鳥居は境界線であり、玉砂利を歩く音でリセットされるんですよ。」

そこは神の居地であり、神話と現世が繋がる不思議な世界。足を踏み入れると、日本人が本来持つ感謝の気持が心にストンと落ちてくるのかもしれない。

――― どんな風に参拝したらいいでしょう?

西村さん:「お寺は、恋愛成就、病気封じ、開運成就、 家内安全などなど、何かを祈願しますよね。神宮さんにお参りするときは、お願いごとより感謝の心「ありがとう」をお伝えいただくと良いと思います。」

濱田さん:「アクセスも抜群というわけではないですからね。伊勢まで来れたことも有り難い=ありがたいことに思えて、感謝、感謝の伊勢詣だと思います。」

お陰様で恋人ができました!お陰様で昇給しました!お陰様で元気です!

時代は違えども、お伊勢さんにお参りし、感謝する気持ちは変わらない。2000年以上継承されているこの特別な”こころ”を、後世に伝えていくことが我々現代人にも求められていると感じた。

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この記事を読んでくださっているすべての方に感謝いたします。
取材・文・構成/ベルトラ 想子(Shoko)


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