宮城県気仙沼市。
3月午後2時、気温8度。
太陽は顔を出しているが、背筋がピンと伸びるような冷たい空気。心地良い場所だ。
気仙沼は漁獲量の多い優良な漁場と呼ばれる「世界三大漁場」の三陸沖に面する。実はカツオの水揚げ日本一でもある場所。他にもマグロやメカジキ、サンマなど様々な魚が水揚げされる中、はんぺんやフカヒレの材料である「サメの水揚げ量」日本一としても知られている。
サメが水揚げ量日本一であるその理由、「マグロやメカジキを狙うと、サメが一緒に釣れるから」だ。サメも漁獲は行っているものの、マグロやメカジキと同じ餌を食べ、生息地も似ているので同時に釣れるのだ。
そんなサメの町気仙沼に工場を持つ、フカヒレの生産、販売を行う株式会社 中華・高橋の社長である、髙橋氏はこう語る。
「私たちは、サメの価値を高めたいんです。」
髙橋氏:2000年頃はサメ保護の論調が高まっていた時期でした。ワシントン条約で規制が始まったのもちょうどそのあたり。今ではSDGsが普通の言葉となってきていますが、当時からサメに対する「フィンニング(サメのヒレだけを取り、残りを海へ捨ててしまうケース)」は問題視されていました。
きれいごとを言うつもりはありませんが、サメにも命があるので、私はフィンニングなどによって乱暴に扱われるのはとても辛いですし許せません。
だから全部無駄なく資源として活用し付加価値を付けたい。そこで着目したのが「サメの肉」でした。
20年前はサメ肉が美味しいだなんて誰も知らなかった。今は面白いものを面白いと受け入れてくれる時代になりましたが、使いやすい商品になるまでには大変な試行錯誤を重ねました。
一般的にサメの肉はアンモニア臭いと言われていて、気仙沼のヨシキリザメも例外ではありません。でも、実は鮮度が良ければ全くアンモニア臭はないので、共同研究によって鮮度管理基準を明らかにし適正な管理をすることで、臭わない美味しいサメ肉の流通を可能にしたのです。低脂肪で高タンパク。味は淡白でクセがなく、天ぷらなどの揚げ物にするとふわふわでとても美味しくいただけます。
あと、「サメ」って言葉のイメージで損しているんですよね。「サメ肉って食べられるんですか?」と驚かれることも多々あります。
そこで、私たちは怖いとか臭いとかいう先入観を持たれないよう、サメ肉を「ピーチシャーク®」と名付け、可愛らしいイメージを纏わせて販売しています。地元気仙沼や水族館などではチキンナゲットならぬシャークナゲットなども人気です。
現在気仙沼で水揚げされる「ヨシキリザメ」は練り物やフカヒレ、健康食品や皮革製品など、あますことなくサメ全体をありがたく活用しています。太平洋の漁業資源を管理する国際的な機関であるWCPFCもヨシキリザメの資源は豊富にあるとしていますので、持続性の高い資源としてこれからも大切にしていきたいと思っています。
中華・高橋のロゴマークはサメの形をしていますが、サメって4億年もの昔から形を変えずに生き残っている生物だと言われています。それはまるで、どんな困難な状況下においても障害を乗り越えられる力の象徴。「サメのように、荒波を乗り越えていきたい」そんな願いをロゴマークにも込めています。
もう10年ですね。
東日本大震災の発生から2週間後に気仙沼を訪れた時のことを今でも思い出します。
女性従業員から「息子が見つからないんです。」とうつむきながら弱々しい声で話をされた時のこと。当然返す言葉などありませんでした。その2週間後、気仙沼を再訪すると「息子が見つかりました!」とハリのある声で駆け寄ってきたのです。あ~、良かった!と思ったら、彼女は頬を緩めて柔らかな口調で「遺体が見つかって本当にありがたいです。」と。そういうことだったか。
震災を通して一番辛かったのは、被災していない私には被災した方々の気持ちを理解することすらできなかった無力感でした。
そこから、私はできることを真剣に考え、一つの結論に至りました。それは持続可能な事業を再構築すること。サメを獲る人、加工する人、販売する人。バラバラだったサメに関わる人たちが皆同じ目的で一つになれる「サメの街 気仙沼推進協議会」を立ち上げるなど、サメの高付加価値化に努めています。そうして従業員が、未来永劫、気仙沼で安心して豊かに暮らしていける環境をつくること。その力になれることこそが、自分や会社の役割だと感じています。(株式会社中華・高橋 髙橋氏)
参考資料:特別企画展[サメ]解説ノート
髙橋社長とお会いし、現地に赴き、想像を越える壮絶さの中、気仙沼の方々と社員とサメと向き合って生きていかれるゆるがない姿勢に多くのことを学びました。
現在、気仙沼の漁港やフカヒレ製造工場見学など、オンラインツアーを準備中です。また、実際に気仙沼や工場を訪問希望があれば、ベルトラでツアーも検討していきます。
多くの旅行者の皆さまにサメや気仙沼についてを知る一つのきっかけになれば幸いです。(メルマガ編集部)
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